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滋賀県~近江国の巻 その1

 近江商人のふる里、湖国滋賀県には、京阪地方の水甕の役目を担うわが国最大の淡水湖がある。風光に恵まれる広大な琵琶湖を囲むように湖北・湖東・中郡・湖南・湖西の地域には、古くから近江の風土を育んできた歴史と生活文化がある。ことに工芸の分野では、湖面に立ちこめる多湿な自然気象が、麻織物や絹織物の生産を促し、近江上布・浜縮緬などの産業を成長させた。
 また県下各地には江州(ごうしゅう)ならではの特産品が芽生えた。これらの中から馴れ親しまれてきた、伝統的な染織と関連する産品を紹介したい。
■湖北地方■
○邦楽器糸~ほうがくきし
 琴糸織と称する珍品は、楽器糸を緯に織り込むさざ波縮地風だが、邦楽家の使い古した糸を集め織糸に加工して用いる。趣味性が濃厚で、個人作家が制作する。この糸を製造するのは余呉湖と琵琶湖を見下ろす賤ヶ岳麓の伊香郡木之本町の大音と西山が、現在では全国で唯一の産地のなっている。
 邦楽の絃鳴楽器(琴、箏)、撥絃楽器(琵琶、三味線、蛇皮線)の本製絹の楽器糸はこの木之本町から、全国へ出荷される。琵琶は奈良時代に中国の唐から、三味線は室町後期に琉球の蛇皮線を改良して作られられているが、産地内には西山生糸組合、木之本町邦楽器原糸製造保存会があり、平成3年に九三ハシモト㈱が国選定保存技術の指定を受けている。
 楽器糸は養蚕の春繭を座繰り引きした生糸を合糸→駒撚りで強撚掛け→ウコンの染料で黄色に染め→糯米糊で煮込み強靭に固め→乾燥して仕上げる。木之本町が産地化する発端は、明治末期に余呉の橋本参之祐が大阪に行き、邦楽器系の加工技術を学んで帰郷。地元の生糸を使って始めたとされている。
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